この記事では『ドイツの障害者雇用』について紹介する。
日本の障害者雇用枠を利用して働いた経験がある僕自身が、世界の障害者雇用について興味を持ったので徹底的に調べてみた。
調べてみると日本とは、障害の定義や障害者雇用政策など、様々な違いがあることに気がついた。
今回の記事を簡単にまとめると
・障害者差別禁止法と割当雇用制度を採用
・法定雇用率は5%
・重度障害者の雇用に積極的
それでは、日本と比較をしながら出来るだけわかりやすく紹介していく。
ドイツの障害の定義
まずはじめに、日本の障害の定義と比較しながらドイツの障害の定義について紹介したい。
障害の定義を比較しながら学ぶ事によって、他国と日本の障害者の権利について知る良いきっかけになるだろう。
障害の定義(ドイツ)
障害とは、『身体的機能、知的能力または精神的な健康状態が年齢に照らして標準的な状態とは異なっており、それが6カ月以上の期間存在する可能性が極めて高く、それにより社会生活への参加が妨げられている状態』のこと。
僕なりにドイツの障害の定義を解釈すると、障害とは『身体、知能、精神的な機能が健常者よりも低い状態が半年以上続くことで社会生活に支障が出る状態』といった感じだろう。
障害の定義(日本)
『身体障害、 知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の 障害がある者であって、障害及び社会的障壁(事物、制度、慣行、観念等)により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者をいう』
日本の定義を僕なりに解釈すると障害とは『身体的、知能的、精神的な機能の低下によって、日常生活や社会生活に支障がある人』といった感じになる。
ドイツでは、機能の低下が半年以上続くことと定めているが、日本では期間を定めていないことが大きな違いだろう。
では、なぜ国際的に定義を統一しないのか、その理由は障害を定義することによって起こる谷間の障害の問題があるからだ。
つまり、障害の定義から外れてしまった人は支援やサービスを受けられなくなってしまう可能性があるため、各国で定義が異なるのだろう。
※谷間の障害とは:障害の定義や制度によって障害認定されない障害や難病のこと。
ドイツの障害者を守る法律と義務
このトピックではドイツの障害者を守る法律と義務について紹介する。
他国の法律や義務を知ることによって、その国の障害者に対する考え方や施策が見えてくるだろう。
障害者平等法
2002年、障害者の社会生活への参加を保障することがこの法律の目的だ。
そのために、障害者の平等および差別の禁止を一般的に規定している。
この法律の目的を実現するために、バリアフリーな生活空間を創り出すことがこの法律の中心となっている。
一般平等法
2006年、性別、障害、年齢等の理由で、労働の募集から終了までの差別を禁止する雇用差別禁止法が制定された。
一方で、日本では2016年に障害者差別解消法が制定されて、障害者それぞれに合ったやり方で配慮すること、差別をなくすことで、障害者も健常者も共に生きる社会を創ることを目指しているのだ。
障害者差別解消法について詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事も読んでほしい『障害者差別解消法とは?障害者本人が解説』
ドイツの障害者雇用政策
このトピックではドイツの障害者雇用政策について紹介する。
世界における障害者雇用政策は、大きく『障害者差別禁止法』と『割当(わりあて)雇用制度』の2つのアプローチに分かれる。
ドイツでは、障害者差別禁止法と割当雇用制度が採用されている。
障害者差別禁止法
アメリカのADA(障害に基づく差別を全般的に禁止と定める法律(Americans with Disabilities Act))がモデルになっている。
ADAの特徴は、機会均等と待遇の平等、差別禁止、合理的配慮と合理的調整が挙げられる。
具体的には、募集、採用、昇進、解雇、報酬、訓練などの雇用条件で、仕事ができる障害者を障害をゆえに差別することを禁止している。
割当(わりあて)雇用制度
法律で雇用率を定めて事業主に義務的な雇用を課す割当雇用制度は、国によって雇用率・納付金制度は様々だが、共通で見られる原則は『障害者雇用は社会の責任・義務である、目的は障害者の社会への統合を促進すること』である。
日本は割当雇用制度を採用していたが、2016年に障害者差別解消法(障害者差別禁止法)が制定されたことによって、割当雇用制度と障害者差別解消法の2つのアプローチとなった。
世界的にも、この2つからアプローチを試みる国が増えてきているのだ。
割当雇用制度(法定雇用率)について詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事も読んでほしい『障害者を雇用する義務、法定雇用率とは?』
ドイツの障害者雇用に対するアプローチ
このトピックでは、ドイツの障害者雇用に対するアプローチについて紹介する。
先ほどのトピックでも述べた通り、ドイツでは障害者差別禁止法と割当雇用制度を採用しているが、このトピックでは割当雇用制度について紹介したい。

割当雇用制度(法定雇用率)を比較すると、日本の法定雇用率2.2%に対してドイツは重度障害者を5%雇用する義務があるのだ。
※ドイツにおける重度障害者とは:障害の程度を0~100(10単位で区切った数値)で判定し、その判定が50以上で重度障害者になる。障害の程度が30以上の場合は障害者と判定されて障害者差別禁止、合理的配慮や雇用義務の対象となり、20以下の場合は障害なしと判定される。
法定雇用率を未達成の企業に対する納付金を比較すると、日本は不足する障害者1名につき年額600,000円(月額50,000円)を納付する。
一方でドイツは、平均雇用率によって納付金が変化する。(下記の表は月額表記)
年平均雇用率3〜5%未満 | 不足する障害者1名につき約15,000円 |
年平均雇用率2〜3%未満 | 不足する障害者1名につき約25,000円 |
年平均雇用率0〜2%未満 | 不足する障害者1名につき約37,000円 |
さらに、重度障害者を雇用していない企業に対しては1万ユーロ(約116万円)以下の罰金が課せられるが、納付金や罰金の制度で解決すべき問題なのか僕は疑問に思う。
このような制度が、実際の雇用率にどの程度影響があるのか次のトピックで確認しよう。
ドイツの障害者雇用の現状
このトピックでは、ドイツの障害者雇用の現状について紹介する。
他国の障害者雇用の現状を把握することによって、日本の障害者雇用の課題や良い点などが見えてくるはずだ。
ドイツでは、障害者のソーシャルインクルージョン(社会の一員として共に支え合うこと)を促進する一環として、障害者雇用に力を入れている。
割当雇用制度としては、従業員20人以上の事業所の事業主は重度障害者を5%雇用する義務がある。
2010年の段階で、雇用義務のある事業主は約14万であったが、そのうち約3万8千が重度障害者を1人も雇用していなかった。
しかしながら、2002年に重度障害者を1人も雇用していない事業主が約5万8千であったことと単純に比較するとその数は減少しているのだ。
なお、2016年の実雇用率は4.7%(民間・公的部門を平均した数値)だった。
日本の実雇用率2.05%と比較すると納付金額は少ないが実雇用率が高いことはよくわかる。
つまり、納付金や罰金といった制度は良い意味で雇用率には影響しないのだろう。
重度障害者を社会の一員として受け入れる体制が整ってるドイツに比べて、日本は重度障害者を受け入れる体制が整っていないことが、日本がイマ解決すべき課題だと僕は思う。
ドイツの障害者雇用まとめ
いかがだっただろうか。
今回はドイツの障害者雇用について紹介した。
日本とドイツでは、障害の定義、障害者雇用政策など、多くの違いがあることがわかった。
冒頭でも述べた通り僕自身、日本の障害者雇用枠を利用して働いていた経験があるが、この記事を執筆して僕が務めていた会社の受け入れ体制が整っていなかったことを思い出した。
今後も、日本だけでなく各国の障害者雇用について執筆していくので、ぜひブックマークもしくはスマホのホーム画面に追加して定期的に確認してもらいたい。
