この記事では『デンマークの障害者雇用』について紹介する。
日本の障害者雇用枠を利用して働いた経験がある僕自身が、世界の障害者雇用について興味を持ったので徹底的に調べてみた。
福祉国家と言われているだけあって、日本だけでなく各国と比較しても障害の定義や障害者雇用政策など、様々な違いがあった。
今回の記事を簡単にまとめると
・障害の定義は定めていない
・障害者雇用政策も定めていない
・障害を特別な能力と捉えたビジネスが存在する
それでは、日本と比較をしながら出来るだけわかりやすく紹介していく。
この記事を読んでわかること
もくじ
デンマークの障害の定義
まずはじめに、日本の障害の定義と比較しながらデンマークの障害の定義について紹介する。
障害の定義を比較しながら学ぶ事によって、他国と日本の障害者の権利について知る良いきっかけになるだろう。
障害の定義(デンマーク)
実はデンマークでは、障害の定義を公式では定めていない。
障害者手帳の交付もなく、障害の程度による等級表の区別も存在しない。
障害者福祉の基本理念に基づいて、一人ひとりを対象として今ある能力と何がしたいかという希望によって保障の内容を決めている。
障害の定義(日本)
『身体障害、 知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の 障害がある者であって、障害及び社会的障壁(事物、制度、慣行、 観念等)により継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態にある者をいう』
日本の定義を僕なりに解釈すると、障害とは身体的、知能的、精神的な機能の低下によって、日常生活や社会生活に支障がある人といった感じだろう。
デンマークには障害の定義がなく、本人の希望によって保障内容を決めるのは日本だけでなく各国と比較しても大きく違うところだろう。
では、なぜ国際的に定義を統一しないのか、その理由は障害を定義することによって起こる谷間の障害の問題があるからだ。
つまり、障害の定義から外れてしまった人は支援やサービスを受けられなくなってしまう可能性があるため、各国で定義が異なるのだろう。
※谷間の障害とは:障害の定義や制度によって障害認定されない障害や難病のこと。
デンマークの障害者を守る法律と義務
このトピックではデンマークの障害者を守る法律と義務について紹介する。
他国の法律や義務を知ることによって、その国の障害者に対する考え方や施策が見えてくるだろう。
社会サービス法
身体的・精神的機能能力の低下、特別な社会的問題のある成人のために特別な政策を先導しなければならないと記述されており、対象者の範囲が広い。
よって、ホームレスやDVを受けた女性なども原因はどうであれ、普通の市民と同様の生活をするのに困難がある人すべてを対象とし、社会的に守るように設計されている。
つまり、障害者という小さな括りではなく、社会的に守る者という大きな括りで守られているのだ。
一方で、日本では2016年に障害者差別解消法が制定されて、障害者それぞれに合ったやり方で配慮すること、差別をなくすことで、障害者も健常者も共に生きる社会を創ることを目指しているのだ。
障害者差別解消法について詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事も読んでほしい『障害者差別解消法とは?障害者本人が解説』
デンマークの障害者雇用政策
このトピックではデンマークの障害者雇用政策について紹介する。
世界における障害者雇用政策は、大きく『障害者差別禁止法』と『割当雇用制度』の2つのアプローチに分かれる。
実はデンマークではどちらも定めていない。
しかしながら、法定雇用率(割当雇用制度)を達成するためだけに企業内で障害者に適した業務を探す、または障害者のニーズに応じた設備や環境を整えるなどといったアプローチとは全く異なる「dis-ability」(障害)を「special-ability」(特別な能力)と捉える新しいビジネス形態が存在する。
障害者差別禁止法
アメリカのADA(障害に基づく差別を全般的に禁止と定める法律(Americans with Disabilities Act))がモデルになっている。
ADAの特徴は、機会均等と待遇の平等、差別禁止、合理的配慮と合理的調整が挙げられる。
具体的には、募集、採用、昇進、解雇、報酬、訓練などの雇用条件で、仕事ができる障害者を障害をゆえに差別することを禁止している。
割当雇用制度
法律で雇用率を定めて事業主に義務的な雇用を課す割当雇用制度は、国によって雇用率・納付金制度は様々だが、共通で見られる原則は『障害者雇用は社会の責任・義務である、基金の分配は事業主の連帯責任に基づく、目的は障害者の職業的統合を促進すること』である。
日本は割当雇用制度を採用していたが、2016年に障害者差別解消法(障害者差別禁止法)が制定されたことによって、割当雇用制度と障害者差別解消法の2つのアプローチとなった。
世界的にも、この2つからアプローチを試みる国が増えてきているのだ。
割当雇用制度(法定雇用率)について詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事も読んでほしい『障害者を雇用する義務、法定雇用率とは?』
デンマークの障害者雇用に対するアプローチ
このトピックでは、デンマークの障害者雇用に対するアプローチについて紹介する。
先ほどのトピックでも述べた通りデンマークでは、障害を特別な能力と捉えたアプローチが存在する。
デンマークにはスペシャリスターネというIT企業があり、ASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)を持つ人が働いているのだ。
創業者であるトーキル・ソンネ社長の息子もASDであり、ASDの特徴を欠如ではなく価値と捉えている。
実は、自閉症の人の正確さは健常者の10倍あり、細部への注意、反復・計算などはすぐれた業績を出しているというのだから驚きだ。
さらに、トーキル・ソンネ社長は『100万人に仕事』を目標として、NPO法人SPF(Special People Foundation)を設立した。
現在、14か国で展開して各国のIT会社と提携関係を持っており、日本にも支部を創り、日本の企業での雇用を実現したいと考えている。
デンマークの障害者雇用の現状
このトピックでは、デンマークの障害者雇用の現状について紹介する。
企業は障害者を雇用する義務や割当雇用制度(法定雇用率等)は定められていない。
障害者の就労を促進するための政策は見られるが義務化にまで至っていないのが現状だ。
しかしながら、前のトピックでも述べたスペシャリスターネは、事業が急速に成長しており今後も国外への展開を進めていく見込みだ。
日本を含めアジアは人口が多いということもあり、今後の雇用規模も大きくなっていくだろう。
日本は発達障害や知的障害の方の雇用率が低いので僕自身も国外発展を期待している。
デンマークの障害者雇用まとめ
いかがだっただろうか。
今回はデンマークの障害者雇用について紹介した。
日本とデンマークでは、障害の定義、障害者雇用政策など、多くの違いがあることがわかった。
スペシャリスターネの障害を特別な能力と捉える考え方はとても印象深かった。
日本でもこのような考え方が一般的になれば障害者が働ける環境が増えるはずだ。
今後も、日本だけでなく各国の障害者雇用について執筆していくので、ぜひブックマークもしくはスマホのホーム画面に追加して定期的に確認してもらいたい。
